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ケン・リュウ短編傑作集『紙の動物園』

ケン・リュウ短編傑作集『紙の動物園』

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

 

「紙の動物園」

紙の動物たちがじゃれついたり噛みついたりいきいき動く様子が、とても愛おしい。主人公の母は中国の貧農出身で、英語を話せず、思春期になるとそのことを疎ましく感じるようになるのだか、そういう気持ちは分かる。私も昔、母の不器用さに本気でいらいらしてたりした。若い時は人にどう思われるかばかり気になり、不格好なところを見られるのが命取りのように感じられる。それは経験のなさや度量の狭さからくるように思う。主人公は母を失ってから、そうした拒絶が母にとってどれだけのものだったかを知る。

 

「月へ」

 月上世界の物語パートと現実世界の生々しい描写の対比が胸に刺さる。亡命を受け入れてもらうために憐れみを誘うような嘘をついていたという場面は嫌悪感を誘うが、話の最後にはそうさせてしまっているこちら側を問うてくる。現実の醜い嘘は、純粋な願いからきていることを月上世界の物語を並行させることによって描いてる。